美郷

 富士山の写真入の年賀状が届いた。住所はずばり、静岡県富士市。今年もよろしくと、晴れた日の富士をバックに若い親子4人がポーズをとっている。差出人は縁あって静岡へ嫁いだ主人の妹夫婦。今では良く見かけるカラー写真の年賀状なのだが、主人がマックで凝りまくった年賀状もかすんでしまう。何といっても本物の富士山にはかなわない。
 今年もまたお正月にはたくさんの人々が故郷をめざし、そしてまた都会へと戻って行った。我が町早来町は元々は純農村地帯。水田あり、畑あり牧場もありの自然に恵まれたのどかな町。まさに「故郷」と言うイメージにぴったりの小さな町。橋本聖子さん、そして最近では「雪だるま」の故郷としても有名、そしてここはまた主人の故郷でもあった。
 「故郷は遠きにありて…」ではないが、静岡に嫁いだ妹にとって北海道はとても遠い。私にとって福島が遠いのと同じように。
 私の父もすでに他界し、母もこちらへ移り住んだ今となっては、故郷はさらに遠く、美しい。桃の花が咲き乱れる季節に帰らぬ人となった父。しばらく振りに故郷の美しい景色を娘に見せてくれたのだ。その時、おまえの故郷はこんなにも美しいんだよと言う父の声を確かに私は聞いた様に思う。
 私が北海道へやってきた頃、まだ高校生だった静岡の妹も今では、2児の母。お互いに遠方へ嫁いだお陰で今では良き理解者。彼女は長女に「美郷」と名付けた。「みさと」と読む。「母さんの故郷はね、北海道と言ってとっても美しい所だったんだよ…。」と教えるのだそうだ。


苫小牧民報 1996年(平成8年)1月20日(土曜日)掲載


mitsuko@isobe.net